『坂井凛子の平凡な日常』 Ⅳ

翌日、明るくなるのを待って、警察に連絡しようとしたのですが、昨日の大雨で土砂崩れが起こり、警察にはまだ連絡できませんでした。
「それは……、まずいことになったな」
皆さん、松岡さんの報告を受けてちょっと動揺しているようです。もっとも、私も警察が来なければどうしようもないと思っていたのですが……。
せっかくのおいしい朝食も、あまり味わう余裕はありません。このままでは第2、第3の被害者が出かねませんし。
「とりあえず天気もあいにく雨ですし、部屋の中で過ごしましょう。できるだけ固まって、一人にならないように気をつけて」
松岡さんの言葉に異存はありません。わざわざ危険値大好調な真似は慎むべきでしょう。
「じゃあ、僕は土砂崩れ現場に行ってくるよ。もしかしたら市職員の人とかがいるかもしれないし」
「じゃあ、僕も行きます」
芳野さん!?
「いや、この場にこの家のことを良く知ってる人が一人もいないのは危険だろう」
「じゃあ、私が行きます!」
って椿さん……、あなたが行くんですか。
「そうだな。そうしてくれると嬉しいよ」
松岡さんは微笑と共に答えました。
というわけで、椿さんと松岡さんが土砂崩れ現場まで行き、その他の人は別荘で待機ということになりました。
「じゃあ、行ってくる」
「気をつけてくださいね」
「ああ、そっちこそ気をつけろよ」
そういって松岡さんは椿さんと共に行ってしまいました。


「じゃあさ、今のうちに事件を解決させない?」
それはまぁ……芳野さんの言うとおり、出来るのなら早いに越した事はないと思いますけど……。
「実はね。私、犯人分かったの」
えっ、犯人がわかった? 外村さんすごい。私にはもう何がなんだかさっぱりなのに。
「犯人はズバリ、松岡さん!」
どうしてそう言えるのでしょうか?
「ふふ、消去法だよ、ワトンソ君」
どうやら、前島さんはホームズ気取りのようですね。というか、’ワトンソ’ではなく’ワトソン’だと思うのは私だけでしょうか? いえ、私も推理小説なんてめったに読まないんで自信ありませんけど。私の言うことはあまり信じないでくださいね、みなさん。
「よく考えれば分かる話だよ。そもそも、私達5人は行動をずっと共にしていた」
今はここには4人しかいないけど、まぁ5人目は椿さんでしょう。
「その間、一人になれたのは松岡さんしかいない」
う、それは確かにそうです。しかし、それは犯人を内部犯に限定した上での話です。
「凛子さん見なかったかな? この家はセ○ムが入ってるじゃん。普通に考えてセコ○に見つからずに侵入するのはかなり難しいよ」
そういえば、当然と言わんばかりに貼ってありましたね、○コムのステッカー。大人の事情で伏せ字になっているのがイタイです……。
「まして、被害者も加害者も両方ともがグルなんてありえないでしょ」
そういえば、何だかんだで私達の進路を妨害し、巧みに身を隠した犯人の行動はかなり――計画的といってもいいレベルかもしれませんね。
「しかし、もし犯人が松岡さんだったらどうだろう? そのことの説明はつくよ。被害者は松岡さんが招きいれればOKだし」
「でもさ、さっちゃん。 あの時計はどう説明するのさ? あの時計が示していた時間の頃、僕らは松岡さんと行動を共にしていたんだよ?」
それがこの説のネックです。私にはそんな方法が今ひとつ考えつかなくて。
「方法は2つ。1つ目は、時計の針を動かしたんだよ。磁石とかで。」
……。できるんですか? そんなこと。
「だから、それをここで試してみようという作戦なのだよ、モ・ナミ」
今度はポアロ気取りですか……。今回のは自信あります。たしかワトンソ役は小林少年だったはずです。
それよりも今の推理ですが、そりゃ昔の時計ならできるかもしれませんが、今の時計ではできないんじゃないでしょうか?
「ふふ、刮目せよ!」
と前島さんはいいながら、時計に磁石を近づけ針に近づけますが……。
「あれ? 反応しない……」
その後も時計回りに回してみたり、磁石を近づけてみたり、遠ざけてみたりしましたが時計の針は1ミクロンも動きませんでした。
やっぱり、そうですよね。昔の時計ならそのトリックは可能かもしれませんが、その場合でも針がガラスと擦れて変な傷ができるでしょうし。
「じゃあ、秘密のボタンがあるとか!」
……。そんなものつけてどうするんですか?
「うう。それならば、必殺!」
何か秘密兵器でも出てくるんでしょうか?
「なんか変な電波が出ていて、それを受信して時間がずれた!」
もはや自棄じゃないですか。
「さっちゃん。僕の腕時計は電波時計だけど、正常に動いてるよ?」
「ぐほっ!」
つうこんのいちげき
外村さんは1500ダメージをうけた。
外村さんはしんでしまった。
「うう、私のライフはもう0よ」
でも、言葉は喋れるみたいですね。
ということは……。
きゅうしょにあたった!
こうかはばつぐんだ!
外村さんはたおれた。
これなら瀕死ですよね? そらをとぶとか、あなをほるとか、いあいぎりとかはできるから喋れますよね。
「タン、タン、タララ〜ン。お預かりしたポケ○ンはみんな元気になりましたよ。というわけで、方法その2!」
なんか外村さんが、カッカきてる感じがします。でもどうせなら、ザオ○クとかあるんj(ry
「実は凛子さんの時計がずれていた!」
落ち着きましょうよ。残念ながら昨日の朝、NHKであわせたばかりですよ。
「そこはこっそりとすり替えたとか?」
そんなに私ってぼーっとしてるように見えますか?
「こう、話してる間にこっそりと時計をいじくったんだよ」
そういえば、ルパン対ホームズかなんかで使われていたような気もしますが、そもそも、喋ってすらいません。
「いや、まぁ喋ってはいたけど、時計に細工するのは厳しすぎるでしょう」
芳野さんの冷静な分析。
「じゃあ、単なる凛子さんの勘違い!」
うう。そこまでいいますか? 私はそんなにドジですか。う〜、もう知りません。マダ○テでも、つのド○ルでもなんでも喰らって倒れてお(ry
「まぁまぁ。二人とも落ち着きなってば! はい、チロルチョコ
やったー! なんか少し前島さんにいい様にあしらわれた感がありますけど、やっぱりチロルチョコさえあれば人生バラ(ry
でももし松岡さんが犯人なら時計の謎がありますし、外部犯ならセコ○の謎があります。正直、困りました。
「でも、もし、もしだよ? もしなんだけど……」
芳野さん? 電話してるわけでもないのにもしもし言いすぎですよ。
「犯人が松岡さんだったら、鏡たん大丈夫かな?」
……。危険な可能性は十二分にありますね。
「鏡たん自らが志願してたよね?」
確かに外村さんの言う通り、椿さんは自分から行きました。いくら小雨とはいえ、雨が降っている中を歩くと言うのはあまり……気がすすみません。とすると――。
「もしかすると、外村さんと同じようにして結論にたどり着き、しかも時計のトリックも解いて、松岡さんを問い詰めるために二人きりになったのかも」
もし、そうだとすると椿さんが危ないんじゃ。
「みんな、急ごう。鏡たんが危ない!」
「でもさ〜、いくら鏡たんでもそんな無茶はしないんじゃないかな?」
前島さん。今はそんなこと言ってる場合じゃないと思いますよ。急がないと椿さんが。ああ、どうしましょう。今にも椿さんは刺されてるかも知れません。
「凛ちゃ〜ん。とりあえず落ち着こうよ。でなきゃ、助かるもんも助からない」
で、でも。
「もし、そうだったとしても相手は男。しかも、凶器のナイフを持ってるんだよ? なんの策もなくつっこむのは危険すぎるよ」
確かに前島さんの言う通りです。でも……。
「まず、武器です。これは傘でいいでしょう。武器としては扱いやすい方だと思います」
芳野さん……。傘ですか?
「で、もって戦い方だけど、とりあえず振り回す方が強いかな? まぁ、隙ができないように注意してね」
まじですか。なんの創意工夫もないじゃないですか!
「あと、なんかやったことある人いる?」
その質問には外村さんが手を挙げました。
そういえば外村さんは合気道やってましたっけ?
「っていうか、松岡さんってなんかできるのかな?」
……。それが分かるのはあなただけだと思いますよ?
「いや〜僕が雇ったのは今夏からで、顔と名前ぐらいしか知らないんだ」
嘘だッ!
「やるなら奇襲かな。ナイフは投げることもできるかも知れないから気をつけて」
と言いながら、木刀を出してきました。
というか、前島さんも素手は結構強いですよね? もしかして戦えないのは私だけですか!?
仕方ありません。こうなったら、覚悟を決めるまでです。
でもその前に、っと。やっぱりチロルチョコですよね〜。


「みんな!準備はいいかい?」
前島さんの掛け声が部屋に響きます。
チロルチョコさえあれば勇気百倍、準備完了です。
「じゃあ、いくわよ!」
ああ、前島さんがすっごく頼もしく見えます。
って、みんな走らないで下さいよ〜。私が一番遅いに決まってるじゃありませんか。
「え〜っと、椿さんが出てからどれくらい経ってる?」
芳野さんが走りながら質問してきます。でも息は切らしていません。さすがですね。
「はぁ、はぁ、だいたい40分くらいです」
もう、こっちは息も絶え絶えで、答えるのが精一杯です。
「確か下の民家まで、歩いて50分くらいだけど、土砂崩れの現場までどれくらいだろう?」
相変わらず、息一つ乱さずに質問が飛んできます。
「ええっと、松岡さんが往復でかかった時間は1時間くらいだから、片道30分といった所でしょう」
もうほとんど答えられなくなっている私の代わりに、外村さんが答えてくれました。
「僕らが着く前に、折り返してるか、そこにいるか。どっちにしてももう着いてるね」
そうですね。走ってるから大体、15分くらいでつくかな?
「気合で12分。急ぐよ!」
み、みなさん速いです。おいていかないで下さいよ〜。




(続く……)