The Dankai

ここはR中学校の司書室である。今日は今年最初の会議をするために図書委員が集まるのだが、まだ三人中二人しか来ていないようである。


「はは、やっぱり正月は餅だな。委員長も食べるかい?」
「羽衣田、『正月は餅』って言う意見には同調するけど、何が何でもワラビ餅を食べることはないんじゃないかな〜。」
「何を言っているんだい。ワラビ餅は『キングオブ餅』と呼ばれるほどなんだよ。これは神聖にして不可侵なんだ。」
「お前は何時代の人だよ……。ところで『キングオブ餅』なんて誰が付けたんだい?まさか羽衣田がかってにつけたんじゃないよね?」
「うぐっ。あ、当たり前だろ。こ、これはね世界公認なんだ。」


読者に誤解のないように補足しておこう、当然羽衣田の嘘である。もちろんのことながら委員長も気づいているが、羽衣田の気を遣ってか(もしくは「バカはバカのままでいい」と言う理論に基づいているのか)何も言わない。


「そんなことよりもNはどうしたんだい?」
「あ、それは大人の事情があってね、登場できないんだよ。」
「『大人の事情』? なんだそれ。」
「それはトップシークレットだよ。いいかい羽衣田、トップシークレットはね神聖にして不可侵なんだよ。もしふれてしまったらどうなるか知りたいかい?」
「餅のロンさ。」
「いちいち餅でかけなくてもいいよ。」
「お〜、YOU、よく気づいたな。ハッハ、これは僕のギャグの中でも自信作なんだよ。」


委員長は「レベルが低いよ……」とつぶやいた。大きい声で言わないのは、羽衣田に気を遣ってか(もしくは(略)なのか)指摘しない。


「何か言ったかい?」
「いえいえ何も言ってませんよ(愛想笑)。それより羽衣田、本当に知りたいかい?」
「わかったから早く言え。」
「本当に後悔しない? あとで後悔しても知らないよ……。絶対後悔するよ……。」


もはや委員長の顔(とオーラ)は怖いものになっている。


「ストップ! やっぱやめとくよ……。」
「(満面の笑みで)さすが羽衣田だ。物事の道理をわきまえている。」
「委員長、『マジシャンズセレクト』って知ってるかい?」
「知らない」
「『脅迫』とか『誘導尋問』に置き換えてもらってもかまわないよ」


委員長はしらばっくれることにしているようだ。


「でさあ、これから何をするんだい?」
「これからの図書委員会の活動について話し合うんだよ。」
「じゃあとっとと話し合おう。」
「う〜ん、でもNがいないと話せないんだよね。」
「そんなの『大人の事情』があるから永遠に終わらないんじゃないのかい?」
「確かに。う〜ん、困ったな。」


と、そのときNが入ってきた。


「二人とも遅れてすいませんでした。『大人の事情』があったものですから。」
「N、いったい『大人の事情』ってなんなんだい?」
「あ、それはですね、要するに著者であるBMISには三人以上の人を動かせるほどの脳力がないんです。だから、今までは私が登場できなかった、というわけです。」
「……。N、それは我が図書委員会の『トップシークレット』じゃないかな……。」


Nは、しまった、と言うような顔をした。その場にいる三人に冷たい汗が流れる……。


「で、でもさあ、なんで今は三人になれるわけ? もしかしてBMISの能力がアップしたの?」


もはや、委員長はやけくそである。一度明かされてしまった『トップシークレット』はとことん解き明かそうという考えだろうか。


「委員長、それは違いますよ。彼の能力が上がるはずないじゃないですか。」
「じゃあ、何でなんだい?」
「それはね、BMISが妙案を思いついたからですよ。」
「妙案? なんだそれは?」
「著者のBMISは『Nが出てこないと話が進まない、でも三人以上は動かせない』ってことで『じゃあ一人取り除いてしまえばいいじゃん』となったわけです。」


N以外の二人は沈黙する。


「でどっちが除かれることになったんだい? とうぜんこの羽衣田様様は残るに決まっているね。」
「羽衣田、それは遠回しに僕が出て行くってことを言っているんだよ。」
「何を言っているんだい、この慈悲深き御羽衣田様がそんなことを言うはずないだろう。」


二人の言い争いはこの後49秒ほど続いたが、そこは割愛させてもらう。


「ちょっと二人とも落ち着いてください。今から発表しますから。」


Nがそういうと二人は黙り込んだ。そして祈るように結果を待つ。


「今から抜けるのは……」



この後、どちらが会議から抜けたのかはあえて書かない。ただ、さらに一悶着あったということだけここに記しておこう。
おそらく読者の中には「何故書かないんだ!」と思う方がいるかもしれない。それにはこう答えておこう。

それはもはや自明のことである。そう、それが『大人の事情』なのだから……





ふう。ここまで書いて僕はやっとため息をつくことができた。
そもそも僕が今日ブログを書いているのには理由がある。
それは、彼が
「俺には才能ないねん。お前書け!」
と言ってきたからだ。
無論、彼に才能がないことは自明である。
だが僕は素直に
「いいですよ」
と答えた。やたら僕の答え方が不自然だったのか、首をかしげながらも、しかし彼はやっかいごとを人に押しつけられて満足そうな顔をしていた。
もちろんのことながら、僕が素直に受け入れたのには理由がある。
それは彼への復讐である。
何故なら――。いや、あえて語ることもないだろう。ようは先週の続きである。
ここで彼の評価を下げて、彼の地位(もはやあるのかどうか疑わしいが)をなくそうと言う根端だ。


と、そんなことを考えているのが悪かったのだろう。いつのまにか彼がパソコンをのぞいていた。
「あ、ようやく文章が書けたんですか。ちょっと読ませてくださいね。」


しまった、と思ったときには時すでに遅し。彼は文章を読み始めていた。
そして彼が文章を読み進めるうちにだんだんと顔がゆがんでいった。
そして読了……。


「なんですかこれは!」
予想通りの反応。
「何やと思う?」
「要は僕の文章力の無さを読者にアピールして評価を下げたかったんでしょ。」
大正解、よくわかってるな。
「でもな、俺は『俺には才能ないねん。お前書け!』ってお前に言われたから書いてんで。そこは感謝し〜や。」
「僕がいつそんなことを言いましたか?僕は『僕の文章に文句があるなら自分で書いてください』って言ったんです。」
まあ誰にでも聞き違いはあるだろう。
「そんなことより、あなたは失敗していますよ。」
「どこが?」
「いいですか、この文章を書いたのはあなたです。つまり『文章が下手』だったり『誰がしゃべっているのかわからない台詞がある』とか『人物の特徴を捉えられていない』だったりすることはすべてあなたのことなんですよ。」
「そんなことは周りの奴らにばれんかったらええんや。証拠も何もないわけやからな。」
「すいません、今の会話録音してました。」
一瞬冷たい空気が流れた。
「……。まさかお前それが最初から目的やったな。」
「さて、何のことでしょう。」
なんて野郎だ。一発殴ってやらねば。
と、その時
「あっ、UFO!」
と彼が叫んだ。当然のことながら、ノリのいい僕はそちらを向いてしまう。
「えっ、どこや? ってお前どこいくねん!」


こうして僕たちは今年最初の会合を終えた。
何だかんだ言って楽しい一年だったな。たぶん彼はそう思っていないだろう。ただ口にしないだけ。行動にはっきりと出ている。
こうして、僕たちの不仲は続いていくのだった……。




それでは皆さん今年もよろしく!

END

(これはフィクションです。実際の僕はもっと慈悲深くて、彼は鬼のように恐ろしい奴です)



※明日に後書き書きます